tapanta

考えたこと、詩、などを書く。

他者の他者は存在しない

 「Q.他者は存在するのですか?A.他者の存在は証明できないのでなんとも言えないです。」みたいな(馬鹿げた)やり取りを見かけた。そう考えると、精神分析家のジャック・ラカンが、「他者は存在しない」というかわりに、「他者の他者は存在しない」と言ったのはえらい!と思う。他者というものは、「自分」というものが存在するよりも確実に存在するものだという発想が、「他者の他者は存在しない」という発言にはある。自分というもの自体が、「他者になろうとする何者か」であって、この世には「他者」と、「他者になろうとする何者か」しかいないのだから、「他者の他者はいない」ことになる。

 高校をやめてから、自分が何を思い悩んでいるのかもわからずいろいろな本を読んでいるうちに、フロイトの本を読んだとき、自分が求めているのはこれだ!と衝撃を受けたことがあった。高校で学ぶような、学んでもしょうがないような暗記教科とは違う、人間の本質について思考を深めていく学問。そのあと精神分析学関連の本を読み進めていくと、必然的にラカンに行きついて、それについて昔何冊か読んだ。ラカンについては、理論の詳細についてはよくわからないけれど、大まかに読んだ。

 ラカンの本で特に好きなのは「ラカン 患者との対話」と「アンコール」の二冊だ。特に前者での発言である「現在の窮地から抜け出す術はないと言わざるを得ません。」が好きでたまらない。ラカンはそもそも人間の限界を強く意識していて、「人間にとって不可能なこと」と、人間が「身の程をしらず果てしなく望むこと」の対立こそ、ラカンが語っていることの根源だと思う。この二冊の本では、そんな「限界」についてほかの本よりも露骨に語られているのが好きだ。